僕は理想しか見えていなくて
ずっと僕の分身に言葉を送り続けていた。
僕は、僕の言葉にこめた思いを僕の言葉なのにわからずにいた。
本当に伝えたかった相手も
僕の言葉に秘めた思いも
君に届かないまま消えていった。
今、後ろを振り返ったら君はまだそこにいるだろうか。
僕は強いから君がそこにいなくても平気だ。
僕は弱いから君がそこにいなくても笑っていてほしいと思う。
ここにはもう、僕の分身はいない。
大切な人
最近、少し忙しすぎたね。
長い間気味の笑顔にあっていなかった気がする。
眠っていた君に口付けをしたら
君の熱が伝わってきた
。
君の肌は少しだけあれていて
最近あまり寝ていないみたいだね。
大切な君を大切にできなくなった時に我に返る。
僕は頭が悪いから、何度も同じ事を繰り返してしまう。
そのたびに君を不安にさせてまう。
寂しい思いをさせてごめんね。
何度、僕が暗闇から帰ることができなくなっても
君はそこにいつまでもいてくれるから。
必ず、君が僕を呼び戻してくれる。
君がそこにいるなら、
僕は必ず戻ってくると誓えるだろう。
君がそこにいるなら、僕は生涯君だけに愛を誓えるだろう。
強さ
恐れない人よりも
痛さを知っている君
肩を震わせながら
怯えながら
それでも、逃げない君
君は強い
痛みをともなう
間違えたら命取りになる
そんな真剣な勝負を繰り返してきた君に
遊び半分で
失敗したって全然困らないゲームしかしたことのない子どもたちは
かなうはずない
心は傷つくほど強くなる
癒せない傷なんて無い
君はそうつぶやいて
まっすぐに前を見ていた
僕の目には
今にも泣き崩れそうで
でも
世界中の誰にも負ける気がしない
そんな強い君が映っていた
どうして
僕たちは
強さに憧れる弱さを捨てきれないんだろう
逃げたいと思う弱い心と
それでも逃げない強い心
弱さがなければ
人は強さを出す必要はないだろう
弱い君がいなければ
僕は強い心で立ち向かう必要はないだろう
君が僕を強くしている
君の涙なんてみたくないから
僕も強くなれる
存在
不安でしょうがないとき
怖くて眠れないとき
いつも僕は押入れに入った
押入れから見る僕の部屋は
いるはずの僕がそこにいない部屋に変わる
押入れはとても暖かくて、君が好きな理由も分かってくる
僕は社会に存在しなくて、
深い森に身を隠してしまったような
非現実的な錯覚に襲われる
僕は、僕の存在しない空間を作って僕を何度も救った
僕に、僕は存在しないと言い聞かせ、僕を安心させた
そして、
君が僕を覚えていると安心させた
僕は、安心して君と共に眠りに落ちる
社会に捨てられた小さな君と社会を捨てた僕
僕たちはお互いの存在を何度も拾いあう
殻
背中に翼を感じていた頃は
すぐに自分の城へ死に物狂いで飛びかえり
青い海の水で血まみれの身体を洗い流した
血が流れ落ち
僕の肌が見えて
やっと我に返る
そして、そこから逃げ出したことを何度もくやんだ
僕は、悔やむことが嫌だった
だから、翼を切り落とした
それから、
外で僕の身体が再び傷つき血まみれになったけれど
もう翼の感覚はなく
僕は城への戻り方を失っていた
逃げる術を捨てた僕は
外の世界に残って必死に戦った
痛みに耐え続けていたら
やがて
僕の傷に涙する人たちがあらわれた
僕は
その人たちを
守りたいと思った
どんな深い傷ももう痛くなくて
外の世界に作った新しい家は
毎日賑やかになった
いつの間にか
僕はこの世界の人となっていた
抱擁
空から降りてきた天使を
ぼくは震えた手でそっと抱きしめた
君はとても冷たかった
ぼくは身体を何度も炎に変えて
君を焼いた
再び熱をもった君は空へとかえっていく
その繰り返しが僕の胸を焼く
君に会いたくて
君に伝えたくて
何度も
何度でも
空を仰ぐ
空から君が舞い降りてきたときの喜びと
君が空へ帰ってしまうときの苦しさ
空を仰ぐ時間の方が
君を抱きしめているときの時間よりも
ずっと長いけれど
君と一瞬でもいられるなら
その長い時間を胸の中で耐え続けることができた
僕は口にすることで
君が空から二度と降りてこないかもしれないから
それだけがこわくて
一度だって君を引き止めたことはなかった
でも
飛び立つ瞬間に見せた君の涙で
君が僕の言葉をずっと待っていたことに気づいた
僕は飛び立とうとしている
君の腕を掴んだ
振り返ろうとした君を
僕は静かに抱きしめた
君の足は地を踏みしめた
色
スポーツ万能で
大学も一流を出て
仕事だって順調で
でも
そんな僕は
たいくつだった
みんながはしゃぐ行事も
僕にとっては
365分の1にすぎなくて
親が毎日のようにつれてくるいいとこのお嬢さん
甘い汁にさそわれて僕の肩にとまる黒い蝶たち
音声の無いものくろの映画を毎日見ているようだった
色を写さない僕の目
音を雑音にかえてしまう僕の耳
色あせたままの僕の時間
ぼくは
休暇をとって日本を出た
どこでも良かった
どこにいってもモノクロの世界だと思っていたから
だけど
それは突然起こった
僕の目には色のついた世界が広がり
君の黒い瞳と紅い唇が映った
僕の耳には音が奏でられ
君の優しい声がひびいた
長いこと空き部屋だった僕の中に
君はどんどん入ってきて
遠慮なんて全然なくて
そんな激しく美しい君を受け入れたいと思った
異国で出会った祖国の君
祖国で見つけられなかったのは
君は異国に旅をしていたから
僕は美しい花嫁をつれて祖国に帰った
まわりは大騒ぎで
ドアを開ける音がひっきりなし
それでも
振り返れば
美しい君の顔がそこにあって
僕は
君を守ると101度目の誓いをたてた
道
僕は頭が悪いから
何度も
何度も道を間違えてからじゃないと
本当の道を見つけられない
正しい道はなかなか見つけられなくて
地にしゃがみこんで空を仰ぐ
天は星も無い暗闇
僕は震えながら来た道を引き返す
一人の暗闇は寂びすぎて
泣いていることにも気づけない
通り過ぎてゆくだけの人たちに
何度もしがみついては
その手を振り払われる
長すぎる迷路は
僕から静かに命を奪っていく
それでも
僕は正しい道は必ず存在して
そこに君がいることを知っている
それだけは知っているから
僕は決して探すことをやめない
正しい道を見つけて
君に出会うたびに
君の大切さに気づいて
僕の君に対する気持ちを思い知らされる
正しい道を見つけて
君に出会うたびに
君は僕を抱きしめて
僕は君を抱きしめる
ことば
僕には言葉がある
ネコの君にはそれがない
不自由だと思った
だから
一晩だけ僕の言葉を君に貸した
君は自由を手に入れた
だけど
君は僕の名前を読んだだけ
そして
いつもと何も変わらず
僕にすりよって静かに眠った
いつもと何も変わらない
僕は
君が全然不便じゃなかったことに気づいた
君が言葉を手に入れても
話す相手がいなければ
君は寂しすぎて死んでしまうだろう
僕に翼があっても
羽を休める枝もない海の上だったら
僕は疲れ果てて死んでしまうだろう
それが
本当の不自由なんだろう
君も
僕も
共有できる優しい時間を持っている
なんて幸せなことなんだろう
僕は君に言葉を貸してしまったから
名前を呼ぶ代わりに
僕は大切な君を抱きしめた
君はいつもこうして僕に伝えていたんだね
僕はこの幸せがずっと続くことを願って
僕も目を閉じた
声
本当は
君の声は
ずっと、ずっと前から僕の中に届いていて
僕は今を壊したくなくて、
気づかないふりをしていた。
頭のいい君は
僕が知らないふりをしていることを
ずっと前から知っていて
それでも
一緒に今を守ってくれていた。
今が壊れてしまっても
君はあいかわらず美しくて
僕は言葉を飲み込んだ。
不器用な僕は君にかける言葉を見つけられなかったけど、
僕は新しくはじまったこれからを
美しい君を
受け止めようと決めた。
本当は
君の声は
ずっと、ずっと前から僕の中に届いていて、
僕のこたえも
ずっと、ずっと前から君の中に届いていたのかもしれない。
幸せ
きみは、もしかしたら病気にならないことが幸せだと思っていないか?
もしかしたら、健康であるこが幸せであると思い違いをしていないか?
病気があっても、
障害があっても、
老いても、
人が人として生きたいと願えば幸せになれる。
僕は僕が人間らしい生活をできるように、
君が君の生き方を大切されるように。
僕はそんな優しい時間がずっと続くように静かに見守っていたいと思ってる。
一緒に幸せになろう。